雪のかんむり
「あんまり遠くにいっちゃだめよ。とくに、森には入っちゃダメ。わかった?春菜。」
「はぁーい。ママ。」
広い、広い、野原。
そこに、母親と女の子が遊びに来ていた。
5歳の少女・春菜は、花のかんむりを作るべく、きれいな花をさがしていた。
「ふふ、ママに、内緒でかんむり作って、びっくりさせてあげるんだから!」
そう呟きながら、てくてくと歩いていた。
と、そこに。
ポウ、と白い光が見えた。
「・・・??」
その光は、どんどん、森の奥の方へ消えていく。
「ま、まってぇ・・・!!」
春菜は、その光を追いかけた。
母親に、森へ入るなと言われたことなんて、もう頭には無かった。
「・・・あれぇ?あの光は・・・・??」
森へ入るなり、春菜は光を見失ってしまった。
「おかあさぁん・・・いない・・・・・ぅきゃっ!?」
辺りを見回しながら歩いていたら、そこらじゅうに落ちている木の枝につまずいてしまった。
「い、痛いよぉぉ・・・・ぅん??」
顔面に走った痛みに、涙しそうになりながらも、顔をあげると、そこには見知らぬ男の子が立っていた。
年は12歳くらい。
白すぎるほど白いその顔には、表情というものが無かった。
5歳の春菜には、とても大きなお兄さんに見えたはず。
「おにぃさん、だぁれ・・・??」
春菜が尋ねる。
しかし、男の子は無言。
「わたしは、春菜だよ。おにぃさんは??」
もう一度尋ねた。
まだ、男の子は無言。
「・・・もしかして、おなまえ、ないの・・・??」
春菜がそう尋ねると、男の子は無表情でコクリ、と頷いた。
「ふぅ〜ん・・・??じゃぁねぇ、春菜がおなまえ、かんがえたげる!!う〜んとね〜・・・」
男の子の顔をじぃ〜〜っと見つめながら、顎に人差し指をあてて考える。
そして、
「・・・ゆきくん。」
ぽつり、とつぶやいた。
「雪くんは??お顔、真っ白だし!なんか、そんなかんじがするの!!!」
雪、と呼ばれた少年は、一時あっけにとられたような顔をしていたが、やがてコクリ、と静かにうなずいた。
「ねぇ、ゆきくんは、ここで何をしてたの??」
「・・・・・お母さんを、さがしてたんだ。」
小さな声で、ぽつり、と雪は答えた。
「ママ、を・・・??」
「・・・うん。一度も、会ったこと無い」
「一度も・・・??」
一度も会ったこと無いのに、どうやってさがすんだろうと春菜が考えていると、
「じゃぁ、僕、行くから・・・」
雪は、森の奥へ行こうとした。
「ま、まって!!」
春菜は、雪の服のすそをつかんだ。
「あのねっ、春菜もママを探してるの!!一緒に、探さない??」
「・・・・・・。」
コクリ、と頷いた。
「じゃぁじゃぁ、お花のかんむり作ろうっ!春菜、ママに作ってあげようと思ってるんだけど、ゆきくんもママに作ってあげよう!!」
雪が頷く。
「あっ!?でも、お花がないやっ!??」
春菜は、さっきまで自分が花を探していたことに気がついた。
辺りを見回しても、そこには木の枝や木の葉があるだけで、花はなかった。
「・・・花なら・・・」
ふいに、雪が口を開く。
「・・・花なら、たくさん・・・」
そう言いながら、雪は空に両手をかざした。
「うわぁ・・・!?」
その瞬間、突然空から白いものがたくさん降ってきた。
「雪・・・?・・・ちがう・・・。」
春菜は、両手を空に差し出して、降ってくるもののひとつをつかんだ。
「・・・お花だ。」
手に触れた途端、ひんやりとした。
その花は、透き通るように、白く。
本当に綺麗で、雪の結晶みたいだった。
「このお花、ゆきくんが出したの??」
無言で、雪が頷く。
「・・・これで、お花のかんむりつくれるね!」
もう一度、大きく頷いた。
辺りはすぐにたくさんの白い花がたくさん降り積もった。
それは、もう雪のように。
2人は無言でお花のかんむりを作っていたが、先に口を開いたのは春菜だった。
「ねぇ、ゆきくんて、まほう使いなの??」
「・・・え?」
春菜の問いに、雪は驚きの声をあげた。
「だって、こんなにたくさんお花を出すなんて、ふつうの子にはできないじゃない??」
春菜は、辺り一面に降り積もった花を指差しながらいった。
「まほう、つかい・・・。違う。」
「ふ〜ん・・・?まほうつかいじゃないのに、すごいね!!」
春菜はそれ以上そのことを問い詰めず、
「おかあさんのこと、いつから探してるの??」
と違う話を持ち出した。
「・・・ずっと前から。」
「ずっと?」
「・・・ずっと。」
−ゆきくんは、ずっとずっと、1人ぼっちだったんだ・・・。
「だいじょうぶだよっ!ぜったい、おかあさん、見つかるよ!!!」
寂しい思いをしているであろう雪に、春菜は元気付けようと声をかけた。
「ごめん。」
意外な言葉が返ってきた。
「・・・へっ・・・??」
「嘘なんだ、全部。お母さんなんて、ほんとはいないんだ・・・」
「・・・どういうこと??」
「生まれたときから、ひとりぼっちで。お母さんなんて、本当はいないんだ。
・・・でも、この森にずっといれば、お母さんに会える気がしたんだ。」
寂しそうに、雪は話した。
「いるよ。」
ふいに、春菜が口を開いた。
「見つけたよ、ゆきくんのママ。」
「・・・え??」
「ほらっ!」
そう言って、春菜が指差した先は―
空。
「空は、みんなのママ。もちろん、春菜のママもママだけど、空は、もっともっと大きな・・・大きな、ママ。
みんなのママは、いつもみんなのことを、・・・ゆきくんのことを、見守っていてくれてるんだよ。」
春菜は、空を抱え込むようにして、大きく手を広げた。
「・・・そっか。」
「僕のお母さんは、こんなに近くにいたんだね・・・。」
雪は、春菜に倣い、空を見上げた。
「あぁぁっ!!!」
雪を指差し、春菜は大声で叫んだ。
「・・・??」
「ゆきくんが、笑った!!!」
「・・・あ・・・」
雪は、自分が微笑んでいたことに初めて気づいた。
しばらくの間、笑い方なんて忘れていたから・・・。
「ゆきくん、怖いお顔より、そっちの方がぜんぜん良い!!!」
そう言って、にぱっと笑う春菜。
雪は、もう一度微笑んだ。
「・・・できたぁっ!」
完成した花のかんむりを、春菜は高々と天に掲げた。
「ゆきくんのも、出来たんだね。」
雪のほうに視線を向ける。
すると、雪はそのかんむりを春菜の頭の上にのせた。
「・・・?ゆきくん・・・???」
「これ、春菜にくれるの・・・??」
にっこりと微笑む雪。
「・・・ありがとうっ!じゃぁ、春菜のと交換だねっ!!」
春菜は、背伸びして自分のかんむりを雪の頭の上にのせた。
「春菜ー!?」
ふいに、春菜を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ママだっ!!」
春菜はその声のしたほうに走っていこうとし、ふと後ろを振り返った。
「ゆきくん・・・」
自分がいってしまったら、また雪がひとりぼっちになってしまう。
そう考えたら、春菜はどうしたらいいかわからなくなってしまった。
そんな春菜の背中をポンッと手で押し、雪は微笑んだ。
「またね!ゆきくんっ!!」
元気良くそう言って、春菜は母親の方へ、森の外へと走り出した。
決して、振り返らずに。
「・・・ありがとう。」
その瞬間、雪は姿を消した。
「ママー!!」
「春菜!森に入っちゃダメって言ったでしょ??」
「ごめんなさい、ママ・・・でも、あのね・・・っ!」
「あら?春菜、頭がびしょぬれじゃない。どうしたの?」
「・・・え?」
春菜が自分の頭に手をやると、そこには雪がのせてくれたはずのかんむりは無かった。
手に、冷たい水の感覚が伝わる。
「あのね。森の中で、雪みたいなお花を出せる、ゆきくんていうおにぃさんに会ったんだよ。それでね、ゆきくんと一緒に、そのお花でかんむりを作ったんだよ!!」
「雪みたいなお花・・・??じゃぁ、きっとそのお兄さんは雪の精だね。」
母親が春菜の頭を服のそでで拭いてやる。
「ゆきの、せい・・・??」
空を見上げると、さっきまで降っていた雪はいつのまにかやんでいた。
降り積もっている雪は、明るい太陽に照らされて溶け出している。
一筋の春風が、春菜の髪をなびかせていった。
「ゆきくんには、もう会えないの??」
「来年になったら会えるわよ。また、雪の降る季節になったら。」
「らいねん・・・」
森の方を振り返り、ぽつりと呟いた。
「らいねん、会おうね。ゆきくん。」
***あとがき***
司ちゃんのリクエスト、"冬から春へ"と聞いて、一番最初に浮かんだのは、
"雪が解けて春が来て、心も一緒に解けていく・・・"てなかんじのことでした。
そんな感じが少しでも伝わっていれば良いな♪と思います〜。
ちなみに、これを書いたときに聞いたBGMは中島美嘉さんの"雪の華"です(笑)
あと、この小説は捧げたモノ・・・のはずが、その捧げたお方本人に挿絵を頂いちゃいましたぁ!?
まだ見てない方はれっつクリック♪→☆
司ちゃん、どうもありがとう!!!
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