クリスマスから始めよう。


今日は、クリスマス。
 何も予定がなかった私が、突然、告白されてしまった。
 帰り道の公園で。
「俺、加奈(かな)のこと……。好きなんだ。つき合ってほしい……」
 翔太(しょうた)さんが、目の前で告白している。
 う、うそみたい。
 いつも、強気で何でもハキハキ言う翔太さんが、モジモジして赤くなっている。
 私は、その光景を夢でも見ているかのように、じっと眺めていた。

 翔太さんと私は、コンビニでバイトをしている。
 私は、高校に入ってからも帰宅部だったので、持て余していた時間をバイトにあてた。
 人見知りだったし、少しでも自分を変えたくてバイトを始めたけれど、
最初に翔太さんに逢った時は、『やっぱりバイト辞めよう』かと思ったっけ。
 だって、怖かったんだもの。
 人を威圧するくらい背が高い上に、金髪にピアス、ダボダボのシャツとジーンズ姿だったから……。
 直感的に、『私とは縁のないちょっと不良っぽい人』という感じを受けた。
 私は、黒髪にノーメイク、スカート丈は膝までという校則に従っているごく普通の高校生。
携帯も持っていないし、男子との面識もなく、打ち解けて話したこともなかった。
 だから、ちょっと不良っぽい翔太さんが怖かった。
 でも、翔太さんは、口は悪いけど、優しかった。
分からないことも丁寧に教えてくれたし、気を遣ってくれた。
それに、すごく友達が多いってことも知った。
『おい、翔太。頑張れよ!』
 と、翔太さんと同じような格好をした友達が来たり、
『翔太。相変わらず、女泣かしてる?』
 と、冗談を言うお姉さん達が来たり……。
毎日のように友達が来ては、買い物して、一声掛けてゆく。
『おまえも頑張れよ』
『うっせぇーよ。俺は、おまえと違って、真面目なんだよ』
 と、笑顔で返す翔太さんを『素敵だなぁ』と思っていた。
 私は、人と話すのが苦手で、いつも相手に気を遣わせてしまう。
だから、翔太さんのようにみんなが慕って話しかけてくれる友達がいるのが羨ましかった。
 でも、翔太さんを『恋』とかそういう対象で見たことはない。
だって、私より八歳年上だったし、自然と先輩としか見られなくなっていた。
 第一、沢山の女友達がいたから、彼女がいるものだとばかり思っていた……。
 それが、今、私の目の前で告白しているなんて……。

  「そ、そんなに見つめるなよ。お、俺だって恥ずかしいんだから……」
 翔太さんは、ジャンパーのポケットに両手を入れて、困ったように俯いた。
私は、その言葉でハッと我に返った。
「翔太さんにずっと彼女がいると思ってたから、私……。何だか、不思議で……」
「な、何で勝手にそう思うんだよ」
「だって、女性の友達多かったし、翔太さんはみんなに好かれているし、てっきり彼女がいるとばかり……」
「彼女なんて、いねぇーよ」
 翔太さんは、少し怒った口調で言った。
「私の勘違いだったんですね。すみません……」
「べ、別に謝ることはねぇーんだよ」
 怒ったと思ったら、今度は困って頭をかいている。
 いつもとは、違う翔太さんの一面を見て、思わず笑ってしまった。
「加奈。な、なに笑ってるんだよ」
「うううん。別に……」
 翔太さんは、咳払いをして、仕切り直した。
「で? どうなんだよ? 俺のこと、どう思ってるんだよ?」
 真剣な翔太さんの眼差しに、一瞬クラクラした。こんな風に、見つめられたことがないんだもの。
 翔太さんの気持ちは、すごく嬉しい。翔太さんのこと、嫌いじゃない。むしろ、好きだと思う。
 でも、『つき合う』って初めてでどうしていいのかよく分からない。
 それと――
 どうして、私なんだろう?
 翔太さんに似合う人なら、沢山いるのに……。
「翔太さん?」
「あぁ?」
「どうして、私なんですか? 私の何処が好きなんですか?」
 私は、思い切って訊いてみた。
 翔太さんは、沈黙した後、ポツリポツリと話し出した。
「何処がって……。
人見知りだけど、一生懸命話そうとするトコとか、文句一つ言わずに頑張るトコとか、俺に向けてくれる笑顔とか……。
『どうして』って、加奈を好きになっちまったもんは、仕方ねぇーだろ」
 翔太さんは、本気だった。
 嘘じゃない。
 私を好きになってくれたんだ。
 ずっと、ちゃんと見ててくれてたんだ。
 そう自覚すると、何だか急に力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまいそうになった。
「おい、加奈。だ、大丈夫か?」
 翔太さんが、私の体を支えてくれて、何とかしゃがみ込むのは間逃れた。
「告白されたのって初めてで……。急に緊張して、どうしていいのか分からなくなって……」
 翔太さんは、ぷっと吹き出して、
「加奈らしいな……。そういうトコが好きなんだけど」
 と呟いた。
「俺のこと、嫌いか?」
 私の体を支えている翔太さんの手に力がこもる。
「うううん。嫌いじゃない……」
「他に好きなヤツいるのか?」
「うううん。いないよ……」
「じゃぁ、俺とつき合ってくれ……」
 私は、翔太さんの広い胸に支えられながら、一つの答えを出した。
「うん……」
 その途端、力強い腕が私を包み込んで、
「加奈……」
 と、吐息にも似た翔太さんの声が耳元に響いた。
「翔太さん……」
 でも……。
 ふと、不安になり、
「ホントに私でいいの?」
 と訊いてしまった。
「加奈じゃなきゃダメだ……」
「でも……」
 そう言いかけた時、翔太さんは、私の唇に人差し指を当てて、
「加奈じゃなきゃダメだって証拠、見せてやるよ」
 と言って、顔をかたむかせた。
 えっ? 
 これって、もしかしてキス?
 私は、傾きかけている翔太さんを遮るように言った。
  「翔太さん、私……キス初めてなの……」
「イヤなのか?」
「イヤとかそういう問題じゃぁ……」
「加奈を好きだって証拠を伝えるには、こうするしかないだろ?」
「で、でも……」
 翔太さんは、慌てていることなどおかまいなしで、
「好きだ……」
 と言って、少し強引に唇を引き寄せ、キスをした。
 私は、自分の鼓動を感じるくらいドキドキしながら、ただ黙って翔太さんの想いを受け止めた。
 翔太さんのキスは、『加奈が好きだ』っていう想いがいっぱい詰まっている。
 キスがこんなにも自分の想いを伝えられるなんて……。
「俺の想い、ちゃんと伝わった?」
 翔太さんが、ゆっくり唇を離して呟いた。
「うん……」
 私は、小さく頷く。
 私と翔太さんが、照れながらお互いを見つめていると、ふと、夜空から雪が舞い降りてきた。
「わぁ……。ホワイトクリスマスだね」
 私は、両手を広げ、手のひらに舞い落ちる雪を受け止めた。
 雪は、ゆっくりと溶けて、その形を消す。
 何度も何度もその光景を眺めていると、翔太さんが肩を抱き寄せ囁いた。
「加奈、メリークリスマス……」
 翔太さんの心地よいハスキーな声が、耳元に届く。
「メリークリスマス、翔太さん。素敵なクリスマスをありがとう……」
 私は、雪にかき消されないように答えた。
 翔太さんは、私の言葉に応えるように、抱き寄せている手にぎゅっと力を入れた。

 クリスマスから始まる私たちの恋。
 この想い、この雪、この手のぬくもりを焼きつけておこう。
 きっと、何があっても乗り越えてゆけるよね?

 私たちは、いつまでもいつまでも――
 舞い散る雪を眺めていた。

終わり

(あとがき)

最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございました。
「クリスマス恋愛小説」ということで
「クリスマスに告白」をテーマに書いてみようと思い
「クリスマスから始めよう。」が出来上がりました。
私もこんな風に告白されてみたい!
と思いながら書いていました。(笑)

では、皆さんよいクリスマスをお過ごし下さいね。

                望月 里穂

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クリスマスプレゼント交換企画ということで、里穂さまにクリスマス恋愛小説をいただきました〜。
クリスマスに告白なんてロマンチックでいいですよね♪
加奈ちゃんや翔太くん(?なんて年でもないか・・・。)の想いが現れていてよかったですっ。
どうもありがとうございましたぁ☆

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