Xmas gift to you
聖なる夜に賛美歌を
紺碧の夜空に散りばめられた星が一段と輝き、辺りを照らしていた。
窓越しにも伝わってくるひんやりとした空気が冬の気配を感じさせる。
「どうぞ。」
ノックの音にローザがそう答えると看護師が一人入ってくる。
「ビアードさん。寝てなきゃだめですよ。」
「でも、今日は具合も良いし・・」
「そうやってすぐ調子に乗る・・。ほら、点滴換えますよ。」
看護師のため息にローザはくすりと笑った。
「すっかり看護師っぷりが板についたわね。初めて会ったときは新米のダメ看護師だったのに。」
「“ダメ”だけ余計ですよ。」
看護師はそう言いながらローザの点滴を取り換えた。そして窓際のある物に気がつく。
「あれ?クリスマスツリーですか?」
「そう。気が早いでしょ?まだ一ヶ月もあるのに。」
看護師は微笑んで床に落ちていたツリー飾りを付けなおした。
「パパぁ。」
「なんだ、リリ。まだ起きてたのか?」
暖炉の脇で本を読んでいたアルクが顔を上げて問うとリリは目を擦りながらうなずいた。
「眠れないの。お話して。」
「よ〜し。」
アルクは本をパタンと閉じてリリを抱き上げた。
「ねぇパパ。リリ、ロバさんのお話がいい!」
「はぁい。了解しました。」
アルクはリリをベッドに寝かせ、スタンドの明かりだけに照らされて話をはじめた。
「すぅ・・すぅ・・」
やがてリリの寝息が聞こえてアルクは話を止める。スタンドの明かりをそっと消して再び暖炉の脇へ戻った。
「ふぅ・・」
アルクは渇いたのどを潤そうとコーヒーを飲んだ。
妻のローザが入院してからというもの、リリの世話はアルクの担当だ。これが結構大変で特に寝かしつけるのが難しい。
アルクはローザが依然そうしていたようにお話を聞かせることでこれを成し遂げていた。
だが、家にある絵本は皆飽きられてしまったため、今はアルクのオリジナル話を聞かせている。
そのネタも尽きかけていた今日この頃、ロバの話をリリが気に入ってくれたことはすごく有難いことだ。
「ロバくんはいつまで持ってくれるかなぁ」
独り言を言いながらアルクは暖炉の火を消した。
「スニッキーは言ったの〜ロ〜バは丈夫で力〜持ち〜だからへっちゃら〜」
楽しげなメロディーを歌い上げるリリにローザが微笑みかける。
「上手ね。パパの新作?」
「ううん。二週間くらい前のロバのお話。」
リリはすでに付けおわったツリー飾りをせわしなく移動させていた。病院は五歳の幼子には退屈なところだなのろう。
「二週間前?」
ローザは驚いて聞き返した。リリが同じ話を二週間も聞きつづけるなんて珍しい。
「新作はねだらないの?」
たまらず聞くと、
「だってパパ“ねたぎれ”とかいうのでお話作れないんだもん。」
リリはそう答えた。
リリが父親を気遣ったことにローザはさらに驚き、娘の成長を嬉しいような寂しいような気分で見つめた。
そこに売店へ行っていたアルクが帰ってきた。
「あらお帰りなさい、“ねたぎれ”パパ。」
ローザがふざけて言うと「“ねたぎれ”パパ」とリリも続いた。
「・・何の話?」
アルクは眉をひそめながら紅茶をローザに、オレンジジュースをリリに渡して自分はコーヒーを飲み始めた。
「アルク、さっき先生が呼んでいらしたわ。」
「・・・そう。」
「何の話かしら。余命が縮んだりして・・・」
「伸びるかもしれないよ。」
「まさか。」
ローザは笑ったが何処か寂しそうだった。
アルクもローザも知っている。
ローザの身体が取り返しのつかないくらい病魔に侵されてしまっていること。そして、ローザの命が長くは無いこと。
「じゃあ、行ってくるね。」
アルクはコーヒーを飲み終えると医者に会うために病室を後にした。
「ねえママ。」
リリがローザの掛け布団のシーツを引っ張って言った。
「何?」
「再来週の土曜日にお遊戯会があるの。クリスマス劇で、リリ、お星様役やるの。ママ・・見に来られる?」
「ええ、もちろんよ。」
正直行けない可能性の方が高かったけれど、ローザはうなずいた。リリはこぼれんばかりの笑顔を見せて言った。
「ありがとう、ママ!!」
一方医者に呼び出されたアルクは頭に浮かぶ悪い予感を否定するのに一生懸命だった。
長いこと書類をいじっていた医者がようやく一枚のレントゲンを取り出してアルクを見た。
「ローザ・ビアードさんの容態ですが、悪化しています。私が三年前に余命五年を宣言したのを覚えていますか?」
アルクはゆっくりうなずいた。
「大変申し上げにくいのですが、それよりも短くなりそうです。」
「・・・具体的に・・」
「年明けを迎えられれば幸いと思ってください。」
アルクの目の前は真っ暗になった。
「お医者様なんて?」
ローザは膝元で眠っているリリの頭を撫でながら聞いた。大方本人も内容の予想はついているはずだが・・。
「ああ、クリスマスの外出許可がおりたよ。ここのところ容態が安定してるからな。」
「本当に?」
「ああ。」
「そう・・。」
ローザは嬉しそうに微笑んだ。それに反応するようにリリも寝言を言って微笑んだ。
ローザの容態が悪化したのは、それから一週間と少し後、お遊戯会の二日前だった。
複雑な機械を体中につけられたローザは長い間目を開けなかった。
「ママ、お遊戯会来られないの?」
リリの問いにアルクは困ったように笑った。
「ママは今病気と戦ってるんだ。残念だけど無理だよ。」
「・・来るって言ったのに・・」
「その代わり、パパが行くから。ね?」
「ママは来るって言ったもん!!」
リリはそう叫んで自分の部屋の方へ走り去ってしまった。
リリのお星様役は、どこか上の空だった。
「リリちゃんのママどれ?」
たくさん並んでいる保護者の列を眺めながら友人が問う。
「・・・今日は来られないの。」
「どうして?」
「病院でずっと寝てるの。」
「変なの!あたしのママはちゃんと起きるよ!!リリちゃんのママは変だね。」
リリはうつむいて流れそうになった涙をこっそり拭った。
その日の夜、アルクの買ってきた出来合いの夕飯を食べ終えて、リリは聞いた。
「どうして、リリのママは皆のママと同じようにならないの?」
「・・何がだい?」
アルクは食器を運びながら聞き返した。
「どうしてリリのママはずっと寝ているの?皆のママはちゃんと起きるのに、変だよ。」
「リリ・・ベッドに行こうか?お話をしてあげよう。久々の新作だ。」
リリは不満そうにアルクに抱き上げられ、ベッドに寝かされた。
「今日は何のお話?」
「トナカイのお話だ。
昔々あるところにトナカイのルドルフがいました。ルドルフはトナカイの中で ただ一頭だけ赤いピカピカした鼻を持っています。
その鼻が皆と違うから、トナカイの仲間達からも笑われ、仲間はずれにされていました。ルドルフはいつも一人ぼっちでした。
だけどある日、そこへサンタさんがやってきて言いました。
『君がソリの先頭を走ってくれないかね?』
『どうしてルドルフが?』
それはトナカイの仲間達だけではなくルドルフ自身も不思議でした。サンタはルドルフにつづけました。
『子供の眠る暗い夜はお前の鼻の明かりが必要なのだ。』
サンタの言う通り、ルドルフの鼻は夜道でとても役に立ちました。
そして、ルドルフはトナカイの英雄へと変わり彼の真っ赤な鼻はトナカイ達の誇りになったのです。」
話終わってもリリはまだ寝ていなかった。
「リリ、ママが皆と同じでない事を誇りに思ってがんばろう。奇跡は必ず起こるんだよ。」
それはアルク自身に言った言葉だったかもしれない。
お星様役の衣装を着てお見舞いに行きたいと言い始めたのはリリ自身だった。
ノックをしても返事は来ないのでそのまま入るとローザの機械は一つだけ減っていた。
「まぁ、可愛いお星様。」
ローザは微笑んで上半身を重たそうに起こした。
「もう大丈夫なのか?」
アルクが心配そうに聞くと
「ええ。だいぶ良くなったわ。」
ローザはリリの頭を撫でながら答えた。
「アルク、またお医者様が呼んでいらしたわよ。多分クリスマス外泊のことね。明後日ですもの。この機械が全部取れる訳ないわ。」
アルクが「そうだな。」と言いながら出て行くと、リリは窓際のツリーをいじりながら楽しげなメロディーを口ずさんだ。
「真っ赤なお鼻の〜トナカイさんは〜いっつも皆の〜わ〜ら〜い〜も〜の〜」
「あら、“ねたぎれ”パパの新作?」
「そうよ。トナカイさんのお話よ。ママはいつか元気になるんだってお話よ。」
リリはトナカイのお話をローザに話してあげた。それを聞いたローザは困ったように微笑んで娘を呼び寄せた。
「リリ。ママが英雄になれるのはここじゃないかもしれないわ。」
「どこ?」
「天国って所よ。あのお星様の向こうに広がっている世界よ。」
「・・・リリも一緒に行く!」
「それはできないの。
天国に行くには、素敵な人とたくさん出会って、大人になって、格好良い旦那様と可愛い子どもと幸せに暮らさなきゃならないのよ。」
「ふうん・・。じゃあずーっと後にリリも行くから待っててね。」
「うん。」
ローザはリリの頭を優しく撫でた。そこにアルクが帰ってくる。
「どうだった?」
「やっぱり、クリスマス外泊は出来ないって。」
「そう・・ごめんね、リリ。」
ローザもアルクもリリが怒ると思ったのにリリは微笑んで言った。
「ママが来られないならリリが行ってあげるよ!」
「・・ありがとう。」
ローザは優しく微笑んだ。
翌日。リリは約束通りにローザの病室を訪れた。
「今日はまだイヴよ。」
ローザが苦笑すると
「明日まで待ちきれないよ。」
リリが言った。
アルクは寝たきりのローザを見て心配そうな顔をした。
「具合悪いのか?」
「ちょっとだるいだけよ。」
ローザが答えるとアルクが一層不安げな顔になったのでローザは話題を変えた。
「ねえアルク。あなたのトナカイ効果は絶大ね。」
「え?ああ・・聞いたの?」
「リリが歌ってたわ。不思議な子よね。どんなお話にも違うメロディーをつけて歌って。才能あるわ。将来が楽しみ。」
「・・・そうだね。大スターになるかもしれない。・・・ちゃんと見守ってやってくれよ。」
アルクの真剣な眼差しをローザは笑顔で受け止めた。
「アルク、私達の出会いを覚えてる?」
「・・・道端だったな。君の持ってた書類の入った紙袋が裂けたんだ。」
「それで、あなたが一緒に書類を会社まで運んでくれたの。」
「お礼がしたいっていうのを口実に俺に電話番号を聞いてきたんだ。」
二人は苦笑した。
「私、あの時紙袋が避けてついてないって思ったけど、今は良かったと思うわ。格好良いアルクと可愛いリリと幸せに暮らせた。」
「何の話だよ・・」
「やり直せてもこの人生を選ぶわ。あなたやリリに会える人生を。・・・その先に病気が待っていたとしても。」
「・・・随分弱気な発言だな。医者の予告までだって余命はあと一年はあるんだよ。」
「・・・・そうね。」
ローザは苦笑してリリの方を見た。リリは相変わらず熱唱中だった。
「でも、そのとーしの〜クリスマス〜の〜日〜サンタのおじ〜さんは〜言いましたぁ」
そのうちアルクもリリの横に並んで一緒に歌い始めた。
「くーらい〜夜道は〜ピカピカの〜お前の鼻が〜役に立つのさ〜」
クリスマス・イヴ。家族の歌声を聞きながら、ローザは静かに目を閉じた。
後書き
もうすぐクリスマスということでクリスマスものを書いてみました。楽しいファンタジーにする予定が、何故こんなお話に・・?
ちなみに「赤鼻のトナカイ」は本当にこのように出来たようです。本当は歌まで父親が作っちゃうんですけど・・。
母親は寝たきりで話せませんけど・・。クリスマス雑学でした。
トナカイってみんなが赤鼻なわけじゃないんですね(←常識?)
ちなみにローザが言ってた天国への行き方は一例です。(そんなこと断らなくても・・)
これはクリスマスプレゼント代わりに書いたのでフリーにします。お持ち帰りOKです(する人いるのかな・・)。著作権は楓にあります。
------------------------------------------------------------------------
フリーだったので、即効でお持ち帰りをば・・・・♪
楓さま、ありがとうございました。
クリスマス雑学・・・・・とにかく関心いたしましたぁ。
また1つ無駄知識が増えてなによりです(笑)
ありがとうございました〜〜!!